2017年2月2日木曜日

*オーブンの話 その②*

前回のオーブンの話が、思った以上に反響が大きくて、続編を書きたくなりました。今日は、修業先シニフィアンのオーブンとオーブン担当の話。
ながーーーーーいので、ご興味ある方はどうぞ。
というのも、昨日、両手の平に軽くやけどをしました。
全く焦っていないタイミングで、パンの網の上から炉床を触って、その隙間が火傷、という笑えるもの。
軽傷すぎて、気にするほどでもないのですが、思わぬところで、くだらない火傷をしちゃうって、パン屋あるあるな気がしています。
そこで、シニフィアンシニフィエ時代に、初めてオーブン担当をやらせてもらった頃のことを思い出しました。
自分で言うのもなんですが、見てられないぐらい腕が火傷だらけになったものです。ついでに、日々、何かを焦がす夢を見て、うなされる。。。笑。
みなさま、パン屋の腕に出来立てほやほやの火傷の跡があったら、それは実はまだオーブンに慣れていない恥ずかしいことなので、どうかそっとしておいてあげてくださいね。
その火傷で思い出したからか、久しぶりにシニフィアンシニフィエのオーブンを使っている夢を見ました。
以前にちょろっと書きましたが、シニフィアンのオーブンはルクセンブルクハイン社のロールスロイスと言われている窯。
残念ながら、探してみたのですが、写真は私の携帯には残っておりませんでした。
とにかく大きくて、現在、私が使っているオーブンの約7倍の大きさ。1段にフランス鉄板7枚分が4段。それを左右で片側づつ窯入れしていきます。私たちは8回窯入れをするので8窯と呼んでいました。一番上の段は、若干背伸びをしてパンを扱っていました。
とにかく大きいこと、オーブンの土台部分が煉瓦で組まれていること、ガスで熱したオイルを循環させていることから、このオーブンは次々にパンをいれようが、しばらく扉を開けて作業していようが、温度はほとんど下がりません。270℃設定で多くのパンを焼くのですが、上火も下火も全部の段これしか設定できないという不器用っぷり。
それはそうです。ドイツのパン屋さんを見ている限り、ひとつのパンが生地の重さで2キロは当然。それを100個単位で焼いていくので、こういう窯でないと美味しく焼けない。
おかげで、写真ような巨大なパンが本当に本当に美しくおいしく焼けたものでした。残念ながら、今使わせてもらっているオーブンではこの焼き色、焼き上がりは実現できないと思います。
(やはり、小さいので蓄熱が圧倒的に足りない。その分、一生懸命電熱線を働かせるので、表面ばかりに濃い焼き色がついて、側面や中側への火の入り方が違います。)
先日、お客様にご指摘いただいた、火入れが甘いという部分も、ひとつはこのことが原因。(一番は、それを感じきれなかった自分の腕ですが。汗)
そのぐらいオーブンというのは、パン屋の味を決める、最大の要素ではないかと密かに思うのです。
でも、シニフィアンシニフィエのパンたち、さすがにすべてこんな大きさのパンではありません。しかも、日によっては、同じパンを30個焼くこともあれば、2個しか焼かないなんて日もある。
ここから先は、自分でもどうやっていたのか、はっきり思い出すことができないのですが、8窯分、数も大きさも違うパンを焼いているのです。たいがい8種類、時には10種類近くが同時に焼かれています。当然、一つ一つ焼き時間が異なり、いれる数が違えば、焼き時間も入れるべき蒸気量も変わります。小さいパンなので、底が焦げてしまうので、途中で網に乗せて、均一に焼けるように、場所や方向を変えたり。
それを瞬時に判断しながら、一回転が終わる前に、次のパンの発酵具合をチェックして窯入れをしていく。暇があれば、生地の分割成型も手伝いにいって、この後、何のパンがくるのかチェックしつつ、、、。
夢はとてもリアルでした。シニフィアンの夜勤は志賀シェフと2人っきりの日から、多いときは4人体制の時まであって、私が十分にオーブンに慣れてからは、シェフと私はほとんどしゃべらず、ただただ黙々とお互いの作業をしていました。
慣れるまでは、次あれいれろーとか、今日の○○はちょっと柔らかいから急げだの、後何窯空いてるかー?とか、声をかけてもらって焼いていたのですが、5年目くらいからは一言もしゃべらなくてよくなりました。
見て、頭で考えるというよりは、スポーツに近い。体が感じて、瞬発的に動いている感じ。
ぴたっと、オーブンと自分の息が合うと、死闘のように忙しい日がとにかく楽しくて、楽しくて、その日の仕事が終わると電池が切れて、玄関で靴を脱ぎ途中で寝ていたりしたものでした。
こんな素晴らしいオーブンですが、なんせ日本に数台しかないオーブン。故障した時は大変です。
蒸気が出なくなって、窯の中にお湯を撒きながら焼いてみたり(電気窯は壊れます。炉床もこのハインの窯は一枚の石なので大丈夫ですが、スレートの物は割れます。)、温度計が壊れて、手動で加熱とストップを行いながら焼いたり(腕をオーブンに入れて、10秒でチリチリしだすぐらいがバゲットにいい温度。私の場合ですが、、、)、一度だけは全く動かなくなって、仕込んでいたパンがすべてボツになったこともありました。
実はこの経験がとても貴重で、私は旅するパン屋という形態から、時々、オーブンをお借りしてパンを焼く機会があるのですが、どんな状況でも、どんなオーブンでも焼けると思えるようになったのは、あの大好きなワガママオーブンのおかげだと思っています。
もし、ルクセンブルクハインのオーブン買いたい方がいらっしゃいましたら、喜んでおつなぎいたしますので、お声かけください。
最後に、実は、もっとすごいオーブンがあるらしいのです。ホイフトっていうメーカーのオーブンらしいのですが、、、。いつか、その窯で、死闘のように忙しい一日を過ごせる日がくるといいな。志賀シェフが買いたくなってくれるのを、こっそり楽しみにしています。
このシリーズ、もう一段、今度は薪窯の話を予定しています。

0 件のコメント:

コメントを投稿